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大阪高等裁判所 昭和27年(う)2515号 判決 1953年3月11日

控訴人 被告人 奥平つや子

弁護人 津川友一

検察官 横山邦義

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金参万円に処する。

右の罰金を完納することのできないときは、金弍百円を壱日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

本件控訴の趣意は、本判決書末尾添附弁護人津川友一作成の控訴趣意書と題する書面記載のとおりである。

控訴趣意第一点について。

弁護人は、被告人が淫行をさせた佐竹敬子の年齢について、被告人は十八才未満の児童であることを知らなかつたのにかかわらず、原判決がその認識があつたと認定したのは、事実誤認である、と主張するけれども、児童福祉法第六十条第三項によると、児童に淫行をさせる罪については、児童を使用する者は、過失のない場合を除き、児童の年齢を知らないことを理由として処罰を免れることができないのであるから、原判決は、被告人が「女中として雇入れていた十八才に満たない佐竹敬子をして対価をえて情交をさせ、もつて児童に淫行をさせた」と判示しておるのであつて、佐竹敬子の年齢に関する被告人の認識について所論のような認定をしていないのである。そして、原判決の挙示する証拠によれば被告人は佐竹敬子から「数え年十八才」と聞きながら同女の年齢を確認する措置を採らなかつたことを認め得られるから、かりに弁護人主張のように、被告人が佐竹敬子の年齢が十八才未満であることを知らなかつたとしても、その知らなかつたことについて被告人に過失があることが明白である。然らば、原判決が被告人の右の点に関する認識のいかんにかかわらず、同法第六十条第一項を以て問擬したのは正当であつて、論旨は理由がない。

同第二点について。

原判決は「被告人は、昭和二十七年四月二十四日から同年六月二十六日までの間、三日に一回の割合で、被告人方で、女中として雇入れていた十八才に満たない佐竹敬子をして氏名不詳の客と対価をえて情交をさせ、もつて児童に淫行をさせた」と判示し、その擬律において、「判示各所為は児童福祉法第三十四条第一項第六号、第六十条第一項に当る罪で刑法第四十五条前段の併合罪である」と判断し、懲役刑を選択し刑法第四十七条、第十条第三項を適用して併合加重をしておること、所論のとおりである。しかし、右児童福祉法第三十四条第一項第六号、第六十条第一項に該当する罪は、その侵害せられる法益が、対象である児童の福祉という専属的単一の利益であるから、児童をして淫行をさせたときは、淫行の回数が一回であつても同罪が成立することもちろんであるが、それが継続的に反覆せられる場合においても、回数のいかんにかかわらず児童ごとに包括的に観察して一罪とする趣旨であると解すべきである。従つて、原判決が三日に一回の割合で右佐竹敬子をして客と対価を得て情交をさせるたびに同条違反罪が成立すると解し、併合罪の加重をしたのは、法令の適用を誤つており、その誤は判決に影響を及ぼすことが明白である。論旨は理由あり、原判決はこの点において破棄を免れない。

同第三点について。

弁護人は、被告人の司法警察員に対する第二回供述調書の謄本に供述者の押印がないのに、原裁判所がこれを証拠に採用したのは違法である。と主張するけれども、供述調書の謄本に供述者の押印がないのは当然である。記録を精査しても原審の訴訟手続に法令の違反はないから、論旨は理由がない。

よつて、量刑不当の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条、第三百八十条に従い原判決を破棄し、同法第四百条但し書によつて更に判決をする。

原判決の認定する事実に法令を適用すると、被告人の行為は、児童福祉法第三十四条第一項第六号、第六十条第一項に当るから、所定刑中罰金刑を選択し、被告人を主文第二項の刑に処し、刑法第十八条により罰金完納不能の場合における労役場留置の期間を定める。

(裁判長判事 瀬谷信義 判事 山崎薫 判事 西尾貢一)

控訴趣意

第一点事実の誤認がある。被告人は児童であつたことは不知であると云つている。(第二回公判調書九丁)がその証拠を見るに、(1) 佐竹敬子の供述によれば十八才であると答えた(三〇丁及三二丁)とあり、(2) 被告人の供述によれば十八才と聞いていた(一五丁)、十八才と云つた(四六丁)、十八才と答えた(四九丁)、満十八才かと聞いたら満です(四九丁)とあり、之等を綜合するときは被告人は児童であることは知らなかつたものと云うべきで之を児童の認識ありと認定したのは事実の誤認があると云うべきである。

第二点科刑上の違法がある。判決の理由によれば「本件は三日に一回の割合にて……他人と情交させ……」とあり、罰条の点に於て之を併合罪と認定しているが本件は包括一罪と解すべきであつて之を併合罪と認定したのは違法であると云うべきである。

第三点採証上の違法がある。記録によれば被告人の司法警察官に対する第二回目の供述は謄本であるが供述者の捺印がない。此の供述を採証したのは違法と云うべきである。

第四点量刑著しく不当である。(1) 第一点に於て述べた様な事実の誤認があること、(2) 第二点に於て述べた様な科刑上の誤があること、(3) 犯行の動機は佐竹敬子から依頼されたからであること(四七丁)、(4) 水揚は折半していること(四七丁)、(5) 前科のないこと、(6) 常習性がないこと、(7) 被告人の経歴、性格等に鑑みるとき、以上の諸点等を綜合するときは之に懲役六ケ月に処したのは、量刑著しく不当であると云うべきで本件は懲役刑ならば執行猶予、然らずは罰金刑が相当と信ずる。

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